参宣資第一六二号
最近の印度情勢に関する件 昭和一九、八、一〇 「カブール」外務電
(客年八月より本年三月に至る)

一、印度に於ける政治的感情
全体的には反英、親支、一部に於ける反日より成る反日感情は回教徒及共産主義者の広範層にして又会議派党員及「ガンヂー」の政治的信念に従ふ多数印度教徒間にも浸透し居り右は会議派の長期に亘る指導に依る所大なり。反日感情は会議派に敢て反対せざる他の政治組織にも見出さる。親日宣伝は潜行的なる為其の範囲及効果は限定せらる。 

三、枢軸及英国の宣伝効果
(イ)右に付ては印度民衆は双方よりの「ラヂオ」「ニュース」を誇張されたるものとして無視する傾向ありと云ふべし。我々は欧羅巴情勢に関しては真実を知らざるに依り斯かる不安を出来得る限り利用し得ざる困難に逢着し居れり。現在行はれつつある日本軍及印度国民軍の北東国境への進撃の真の効果を評価するは時期尚早なり。印度内の反英民衆は右が英側に早急なる敗北を齎し印度に於ける長期戦の困苦を最少限たらしむることを期待し得る限りに於てのみ進入に対し興味を示せり。印度進入が良好且急速なる進展を為さざる限り印度民衆には活発に協力するの機会なかるべし。又成功的進入の可能性が次第に喪失せらるるに非ずやとの感情も漸次台頭しつつあり南西太平洋及欧羅巴の情勢は日本の長期戦に於ける勝利獲得の能力に付強き疑惑を生ぜしめたり、Tに付ては尚興味と感歎を以て注目されつつあり、然れども非革命的印度人は英勢力を印度外に駆逐すべく国民軍を率るTの能力に左程信頼を置き居らず、「アラカン」に於ける連合軍の成功と印度国民軍の失敗とは日本軍不敗と印度国民軍の愛国的熱情とへの信頼を大いに減少せしめたり、一般的感情に依れば成功的進入の時期は一九四二年八月たりしが斯かる機会は再び来たらざるが如し。

(ロ)
Tの宣伝は一部に於て効果ありたり。緬甸独立の日本側宣言(印度民衆に素晴しき効果ありたり)に引続きTの臨時政府宣言は政治に関心を有する人々には快く受け容れられたり。然れども反英的なる人々の間にも尚強き反日感情あることを了解すべきなり。斯かる反日感情は反英なると同様反枢軸たる所謂「コングレス」地下運動者の非合法出版物中にも見らる。反日感情は印度諸都市の空襲に於ては以前より恐慌は尠く爆弾は「ドック」地域に限られたりと見らるるも対人弾の使用は市民に大被害を与へ悪効果を及ぼ(?)せり。一般民衆は米英軍の劣悪なる暴力振に対し酷評せり。我「ベンガル」委員会は空襲が工場に対し続行せられざる限り工業に対する驚異的効果は殆ど非るべく然も空襲は短期間に最大回数行ふ必要ありと報じ居れり。上述より現在にては最早宣伝の困難を解決する術なかるべし。即ち公然たる「ラヂオ」宣伝が最早大効果を与へざる一段階に到達したりと謂ふべし。今後の情勢の進展に依り我が誠意を民衆に確認せしめ得る如く我地下宣伝を行ふに非れば国内の革命的地盤に依るの外我活動は極めて困難となるべし。軍隊内に於ける英側の日本軍は狂暴なりとの宣伝戦は日本の俘虜虐待物語に依り枢軸側に多少悪効果を与へたり。右は印度兵捕虜の家族に極めて悪効果を与へ居れり。英国は斯る反日宣伝を到る処にて行ひ居れり。斯る宣伝は印度国民軍は暴力を以て軍務に付かしめられ其の結果は印度人兵卒の自発的愛国的感情の結果ならずとの一般的疑惑を生ぜしめたり。欧羅巴に於ける「ソ」軍の絶えざる前進、独逸及比占領欧羅巴に対する空襲、第二戦線への期待が或る程度印度民衆をして対独逸国の欧羅巴に於ける勝利を確信せしむるに到れり。斯るが故に我革命的活動に於ては東西両方面に於て連合国は終局の勝利を得べしとする一般印度民衆の予想と信念に対し闘争(?)を継続しつつあり。

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レガスピー憲兵分隊情報綴 昭18~19年