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三月十四日 自一〇、〇〇 至一二、〇〇 第九五回連絡会議

議題
一、研究問題第七「占領諸地域の帰属及統治機構」(未完)
議事
一、原案に就き山本東亜局長より説明(別冊を除く)あり
其の際左の如き捕足的説明あり
(略)
二、本問題に関する大東亜建設審議委員会の空気に就き鈴木企画院総裁及武藤軍務局長より左の如き紹介あり
(A)一般的空気と認むべきもの
(1)占領地の帰属其の他の決定は国防上の要求に最も重きを置きて決定するを要す
(2)占領地処理は躊躇又は遠慮を要せず、明快率直徹底的に断行すべし
(3)政治的、民族的、経済的に複雑なる地方に対し直接繁累に携はるは不利なり、成るべく従来の機構を活用するを可とす
(4)右に反し人口稀薄にして未開の処女地は帝国に於て強力に把握すべし
但し戦争遂行中の現情に於ては統治の容易にして而も開発に手数を要せざる地域を把握するを要す
(5)占領地域に関しては濠洲又は「ニュージーランド」を包含せよとか西は「インダス」河迄、東は「パナマ」迄占領せよとかの説あり
(6)今回掌握下に入りたる各民族は大体に於て独立の経験無きを以て独立せしむる必要は絶対的ならず
(7)蘭印は従来一組織内に在りしを以て今後も一組織として取扱ふを可とす、然らざれば帝国の手に依り凡ての組織を改編するの必要を生ずべく満洲等の経験に依るも此れは一考を要す
(8)統帥事項に触るることとなるも飛び石に利用せらるる諸島嶼は必ず我が手に収むるを要す

(B)個人的意見と認むべきもの
(1)占領地の帰属其の他の決定には先ず以て八紘一宇の理念を基礎とし細部に入るの要あり、方針を忘れて直接具体的問題に入るは不可なり
(2)占領地処理は戦争遂行に有利ならしむるを以て第一義とすべし、四、五十年の将来又必ず大戦争を惹起すべし
(3)占領諸地域に対しては軍○と外交とのみを十分把握し其他は細部に干渉すべからず
(4)大東亜建設は日満支を中心として実施すべし南方の如き遠距離の地域に重点を持て行くは不可なり、南方のみに夢中になるべからず、帝国と南方との距離は英米間の距離よりも大なり(某海軍将官)
(5)徒らに領土を拡張するのみが能にあらず、占領地域の各民族が喜んで働く様に指導するの要あり、然らざれば将来戦に於て却て指導下民族の反●を受くるに至るべし
(6)まごまごすると独逸人支那人等に良い所を全部取らるる虞あり、今より之を警戒して所要の方策を講ずるの要あり
(7)占領地域を余りに細分するは統治の複雑ならしむるを以て少数の区画に区分するを要す
「註」 以上極秘扱とすること

三、山本東亜局長の原案説明に関し未だ「別冊」統治機構問題の説明に入らざる内に左の如き論議沸騰す
「註」 外務省が説明用として準備せる帰属別地図に帝国領土は赤、独立予定地域は黄を以て色別を●しあり、「ジャバ」のみの独立が強く関心を惹きたるものの如し
(以下判読困難)

「大蔵大臣」
独立は時間●●●●●●●にするの要あり、比島の如きは間も無く独立せしめて可なるやも知れざるも「ジャバ」の如きは「ズーッ」と永く軍政を行ふを要すべし、従て主権は先づ日本に取り適当の時機に独立を与ふれば可なり
独立させると言ふも実際は独立出来ざるやも知れず
「企画院総裁」
軍政は「ズーッ」と永く施行せざるべからず、過早に蘭印に独立を約したりなどして増長我儘させてはならぬ(大蔵大臣強く同意)
独立せしむと言ふも実質的独立には非ずして相当の干渉を受くる独立ならずや、何れにせよ今より独立と決定するは過早なり
「山本局長」
高度の自治より独立に進むと言ふことも考慮し得べきも何れ独立せしむるものならば今の内に決定して置くを可とす

以上にて大体の空気は「ジャバ」のみ何故独立せしむるや、実質的に掌握して独立せしめては却て文句が起るべしとの意見強く会議を支配す

「総理」
統帥関係事項なるも海軍は根拠地設定の為何れ位の地域を確実に把握するを必要と認められありや
「軍令部次長」
先づ以て日本海を中心とし其の周辺は国防の中心たらざるべからず
次で小笠原諸島より南洋委任統治領を経て「ビスマルク」諸島に亘る線及昭南港並に「スラバヤ」を中心とする海域を確保するを要し「ニューギニヤ」東部「サラモア」付近を確保すれば濠州を制圧し得べし
対英国防の為には「ジャバ」「スマトラ」を以て第一線とし之に「アンダマン」を加へて確保するを要するも「ジャバ」「スマトラ」西南岸には良好なる基地なし、結局湘南港「スラバヤ」及「サラモア」を確保するの外なし
対英作戦の為には南支那海と「ジャバ」海とを確保すれば先づ大丈夫なり
東方に対しては小笠原諸島と「ニューギニヤ」間に若干の心配あり
此等の見地より南方占領地域は全部帝国領土とすること可能ならば申分無きも局地によりては政治的民族的各種の事情あり、其処に研究を要する問題あるべし
「総理」
然らば「ジャバ」も皆我が手に収めざるべからず何故「ジャバ」のみを残したるや
「武藤局長」
どうも全部取らねばならぬと思ふも何と無く蘭印は独立せしめざるべからず、然るに「スマトラ」は取らねばならぬ、「ボルネオ」は取らねばならぬと漸次逐ひ詰めて行けば結局「ジャバ」のみ残らざるを得ず、斯る経緯にて「ジャバ」のみ独立せしむることとなれる次第なり

斯くて依然「ジャバ」独立は今より決定してかかるの要なしとの空気となり最後には海軍大臣より『ジャバ」を独立せしめて如何なる利益ありやを研究せる者なりや』との詰問的意見もあり
「其処迄行かんでもよかろう」との仲裁もあり

四、結局本件は更に研究を要すとして未決の儘別冊の検討にも入らず散会となる

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大本営政府連絡会議議事録 其3 昭和17年1月10日~18年1月30日

「国家機密」印 20部の内第11号 「決定」印
占領地帰属腹案 昭和一八、一、一四 大本営政府連絡会議決定

一、占領地の帰属に関しては左の基準に依り之を定む
(イ)大東亜防衛の為帝国に於て確保するを必要とする要衝並に人口稀薄なる地域及独立の能力乏しき地域にして帝国領土と為すを適当と認むる地域は之を帝国領土とし其の統治方式は当該各地域の伝統民度其の他諸般の事情を勘案して之を定む
(ロ)従来の政治的経緯等に鑑み之を独立せしむることを許容するを大東亜戦争遂行並に大東亜建設上得策と認むる地域は之を独立せしむ
(ハ)独立及領土編入の時期に付ては諸般の情勢を考慮し之を決定す

二、右に基き差当り帰属腹案を決定すること別紙第一の如く其の条件を概ね別紙第二の如く予定す
三、情勢の推移に依りては本腹案を変更することあり

別紙第一
 地域     将来の帰属備考
一、緬甸独立国「シャン」諸州「カレンニ」州に付ては別紙第二中一、の(二)参照
二、比律賓 独立国 「ミンダナオ」に付ては別紙第二中二、の(二)参照
三、其他追って定む 
備考
泰国の失地恢復に付ては昭和十七、五、九決定『「タイ」軍の「ビルマ」進撃に伴ふ対泰措置に関する件』に依る

別紙第二
独立の態様及条件
一、緬甸
(一)帝国との関係
(イ)軍事 帝国との間に共同防衛を約せしめ兵力の駐屯、軍事基地使用及設定等を認めしめ特に軍事的結合を鞏固ならしむ
(ロ)外交 緊密提携を約せしむ
(ハ)経済 緊密協力を約せしむ
(二)「シャン」諸州、「カレンニ」州に対しては特別の取扱を為す

二、比律賓
(一)帝国との関係
(イ)軍事 帝国との間に共同防衛を約せしめ兵力の駐屯、軍事基地使用及設定等を認めしむ
(ロ)外交 緊密提携を約せしむ
(ハ)経済 緊密協力を約せしむ
(二)前項の外「ミンダナオ」に付ては更に特別の措置を執ることあり

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「国家機密」印
弐拾部の内第十二号
第十回御前会議 内閣総理大臣説明 (昭和十八、五、三一)
唯今より開会いたします。
御許しを得たるに依りまして、本日の議事の進行は、私が之に当ります、
(略)

六、其他の占領地域
マライ」「スマトラ」「ジャワ」「ボルネオ」「セレベス」は民度低くして独立の能力乏しく且大東亜防衛の為帝国に於て確保するを必要とする要域でありますので之等は帝国領土と決定し重要資源の供給源として極力之が開発並に民心の把握に努むる所存であります。之等の地域に於ては当分の間依然軍政を継続致しますが原住民の民度に応じ努めて政治に参与せしむる方針でありまして現に政治参与を要望して居りまする「ジャワ」に対しては特に之を認める積りであります。而して本帰属決定は敵側の宣伝の資に供せらるる等の虞がありますので当分の間発表せざることと致しますが原住民の政治参与に関しましては適宜之を発表するを適当と考へて居ります。
「ニューギニヤ」等前述以外の地域の処理に就きましては既に述べましたる所に準じて追て定むることと致します。

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これはあの「大東亜政略指導大綱」と内容日付が一致
「国家機密」印
参拾部の内第2号
大東亜政略指導大綱
昭和十八年五月二十九日大本営政府連絡会議決定
昭和十八年五月三十一日御前会議決定 同日裁可

一、対満華方策
帝国を中心とする日満華相互間の結合を更に強化す
(略)

二、対泰方針
既定方針に基き相互協力を強化す。特(?)に「マライ」に於ける失地回復、経済協力強化は速に実行す。
「シャン」地方の一部は泰国領に編入するものとし之が実施に関しては「ビルマ」との関係を考慮して決定す
三、対仏印方策
既定方針を強化す

四、対緬方策
昭和十八年三月十日大本営政府連絡会議決定緬甸独立指導要綱に基き施策す

五、対比方策
成るべく速に独立せしむ
独立の時機は概ね本年十月頃と予定し極力諸準備を促進す

六、其他ノ占領地域ニ対スル方策ヲ左ノ通定ム  
但シ(ロ)(ニ)以外ハ当分発表セス  
(イ)「マライ」、「スマトラ」、「ジャワ」、「ボルネオ」、「セレベス」ハ帝国領土ト決定シ重要資源ノ供給源トシテ極力之ガ開発竝ニ民心ノ把握ニ努ム  
(ロ)前号各地域ニ於テハ原住民ノ民度ニ應シ努メテ政治ニ参與セシム  
(ハ)ニューギニア等(イ)以外ノ地域ノ處理ニ関シテハ前二号ニ準シ追テ定ム  
(ニ)前記各地ニ於テハ当分軍政ヲ継續ス 

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防衛省防衛研究所 陸軍一般史料 基本大綱等文書綴 昭和16.2.15~19.2.2

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